東北
【日本酒・千両男山】「Senryou Otokoyama ”amane.(アマネ)”」
2022.07.15
Project

一般社団法人日本地域色協会では、地域の資源を「色」「色名称」「物語」の3要素で『地域色(ちいきしょく)』として定義し、その活用を通じて地域資源の保全と次世代への継承に取り組んでいます。
私たちの活動の柱の一つである「いわてのいいイロ発信プロジェクト」から生まれた万年筆インク「いわてのいいイロCOLOR INK」は、岩手初の「ご当地インク」として累計2,000本以上が全国のファンの元に届いています。このインクを通じて、「地域色」×「筆記文化」という掛け合わせが、地域のストーリーを記憶させ、応援のアクションを呼び起こす強力な相乗効果を得られることを体感しました。
今回「いわてのいいイロCOLOR INK」の取り組みを見つけてくれた、岩手県立葛巻高校の探究プロジェクトチーム「Ink Winery High School」の生徒から一本のメールをもらいスタートしました。生徒たちは、地域の名産品であるワイン製造で発生する廃棄物を活用して「万年筆インク」を作る取組をしていました。その支援の記録と、地域色が持つ可能性について深く掘り下げご紹介します。

岩手県北部、標高1,000m級の山々に囲まれた葛巻町には、「北緯40度 ミルクとワインとクリーンエネルギーの町」というキャッチコピーがあります。コピーの通り、風光明媚な自然が広がり、食やエネルギーと言った自然の恵みにあふれる町です。
葛巻高校の「総合的探究の時間」に取り組む生徒たちが「ワイン製造過程の未利用資源(搾りかすや枝)」に着目したのは、葛巻の町としてのコンセプトに通底するものがありました。
風力、太陽光、そして畜産糞尿を活用したバイオマス発電。自然の恵みを使い切り、エネルギーへと変えて循環させる思想は、この町の暮らしの根幹です。
今回のチーム「Ink Winery High School」は、地元葛巻出身の生徒と、全国から集まる「くずまき山村留学」の生徒による混成チームでした。ワインの廃棄物から万年筆インクを作り出すテーマは、過去の先輩が取り組んだ探究学習から継承したものでした。ただ、製造方法などの詳細記録は残っておらず0からのインクづくりに取り組んできたそうです。留学生と地元生の視点が交差することで、廃棄物から「色」という新しいエネルギーを取り出すユニークな挑戦です。
2025年9月、彼らが事務所に持参した最初の試作品は、ブランデーの残液を利用したものでした。9本の試作をそれぞれ試し書きしました。
当時はまだワイン用ぶどうの収穫時期では無かったため、地域の醸造所からブランデーの残液を分けてもらい試作を始めたところでした。
この日の検証には、当協会と共に「いわてのいいイロCOLOR INK」を育ててきたオリジナル文具の販売とプロデュース「pen.」の菊池保宏氏にも同席してもらいました。プロの視点によるフィードバックは、生徒たちにとって実現の難しさを知るものでした。




2025年9月時点での試作インクは発色が淡く、粘性が足りず、筆記具としての実用性は極めて低い状態でした。しかし、私たちが最も大切にお伝えしたのは製造技術論ではありませんでした。「作り手としての責任とマインド」です。
高校生の思いは、このインクを商品として販売したいでした。
天然素材を用いたインクは、退色や香り、変性や腐食といったリスクを常に抱えています。インクを商品として世に出す以上、その品質を誰が、どう担保するのか「作り手の責任」が発生してくるのです。インクを作ったから誰かに売って欲しいではゴールしない「社会実装の難所」を、私たちはあえて対話の軸に据えました。
「自分たちは、このインクを商品として世に届けたいのか?」
「万年筆インクである理由はどこだったのか?」
「問い」の再定義でした。
チーム内からも、文具が好きで万年筆インクを作りたい。そもそも色を作ることが面白そうだった。それぞれの意見が交錯しながら、改めて自分たちの取り組みを見つめ直す機会になったようです。
その後、ワインの廃棄物を地域の醸造所から分けてもらうことができ、インクづくりが進展したと成果発表の報告をもらいました。
成果発表会では、チームの取り組みを次のように紹介していました。彼らのポスターの内容をご紹介したいと思います。実際のインク製作は、試行錯誤の連続で本当にたくさんのハイライトがあったと思います。
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【設定理由】葛巻ならではの資源を活用して、ものづくりをしたかったから
【Plan(計画)】ワインやブランデーの産業廃棄物を利用してインクをつくる
【Do(実行)】産業廃棄物を煮てクエン酸、水糊、重曹を加える
【Check(評価)】廃液:色が薄い、紙に色がでにくい
搾りかす:廃液に比べて色は濃いめ、思っているきれいな色はまだ作れていない
【Action(改善)】クエン酸、水糊、重曹の加える量を変える煮詰める時間も変える
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2026年2月4日、葛巻町複合庁舎「くずま〜る」で開催された成果発表会。
全25班によるポスターセッションの中で、彼らのブースも生徒、大人の熱い視線が向けられていました。ポスター掲示に加え、PCでスライドを見せながらのプレゼン。そして何より来場者の目を釘付けにしたのは、改良を重ねたインクによる「試し書き」体験でした。
実際のインクは、鮮やかなピンク、落ち着きのある紫、フレッシュなオリーブの3色が作られていました。材料は、ワインの廃棄物で同じもを使っていますが、クエン酸、水糊、重曹の分量で3色を作り分けたそうです。
9月の時とは見違えるほど色が鮮やかに出るようになった「彼らの色」。実際にペンを走らせた参加者の驚きと笑顔は、数字や順位では測れない確かな「プロダクトの力」を示していました。尚、ポスターセッションでは、参加者からの投票があり、得票上位の班は口頭発表に進めるという審査を兼ねていました。



結果として、チーム「Ink Winery High School」は口頭発表には惜しくも届きませんでした。ただ、来場者から寄せられた多くの投票と試し書きのフィードバックは、生徒たちにとって貴重なユーザーインタビューの体験となったはずです。
インク班の生徒たちも、残りの総合的な探究の授業時間も改善に取り組んでいきたいと感想を持ってくれたようです。


私たちが「Ink Winery High School」を支援して、また多くの方に紹介したい理由は、彼らの活動が私たちの掲げる「いいイロ」の目指す姿そのものだったからです。
地域資源を「色・色名称・物語」として再定義し、魅力発信の増幅装置に変えていく。彼らが作り出しインクの一本いっぽんは、葛巻の未来を綴るための「地域色」でした。

発表会を終えた彼らに、私たちはさらに3つの宿題を贈りました。
1. 筆記性の向上:万年筆のインクである以上、筆記性が求められます。
2. 再現性の確立:インクを同じ品質で複数製造できるという、製品づくりの実現。
3. ブランドアイデンティティとしての「色」の確立:
特に3点目は、当協会が最も大切にしている視点です。
今回は、綺麗な色を出すことがテーマになっていました。次は、どの色が自分たちの色かの探究です。
実際の社会において、スポーツチームや企業が「特定の色」を共通イメージとするように、色は価値を記憶させ、想起させる強力なツールになります。
「この色こそが、私たちの葛巻の色だ」と言える、ファンとの接点になるカラーを確立すること。それが定まったとき、プロジェクトはもっと多くの方に届くのではないでしょうか。

彼らが瓶の中に閉じ込めた色は、単なるインクではありません。葛巻の風土、先輩の想い、そして学校での時間や苦労が溶け合った、地域のアイデンティティになろうとしています。
一般社団法人日本地域色協会は、この情熱的な「作り手」たちの挑戦をこれからも見守り、できるサポートは続けたいと考えています。彼らが生み出した「葛巻の色」が、いつか全国の文具ファンの手に届き、この町のストーリーを語り継ぐ一助となることを信じています。